木材の健康効果の相談を受けて
「社員の健康は職場の木質化から」という記事で木の健康効果について書きました。
順序が逆ですが、木の仕事を頂いた経緯と参加した研究会について、記録としてまとめておきます。
木の健康効果の情報はどこにある?
ある日、アールクロスラボの西川さんから「木の健康効果をまとめてほしい」という趣旨のお仕事を頂きました。
まずは論文検索。
いつも使っているPubMedという医学のデータベースで調べましたが、香りや精油の細かい話はあるものの、総合的にまとめたもの(システマティックレビュー)は見つからず
あれこれ調べる日が続きました。
林野庁のサイトに「木づかい運動」という文字を見つけました。日本の木材をもっと使ってください、という趣旨ですが、なかなか面白いけれど、欲しい情報は見つからず。
大学の建築学科の先輩に聞いても、医学的なものはあまり読んだことないな~と。
そうなんです。木材業界の人は、木材は体にいいというのが大前提なのか、熱心に相談にのってくださる方には出会うことは出来ませんでした。
結局、数少ない論文からたぐりよせるように調べました。
官能検査という測定方法
木材学会誌、日本官能評価学会誌、関連書物などに書いてある木の健康効果に関する内容は、以下の通り。
視覚による効果
木目などの視覚の効果、反射光による目の疲労軽減効果、木目の印象、因子分析など
吸放湿効果
手の汗を吸収することによる触感
触覚による効果
好ましい触感、拡張期血圧の低下、脳の処理量が少ない
香りによる効果
緊張、疲労、抑うつ、怒りの感情尺度の減少、血圧の低下、作業効率の上昇、抗ストレス、脳波など
私は官能検査について知らなかったのですが、もともと鉱工業製品の品質の良し悪しをヒトの感覚で判定する方法だったようです。
製品のイメージ調査や消費者の嗜好調査が主なので、感性を把握できる一方、再現性があるのか?などとも言われる。
しかし、機械では測れない人間の嗜好や感性を評価できることは有用だと思います。
Wood/Human Relations研究部会
西川さんのお仕事はIFFTでの展示をもって無事終わりましたが、2018年12月に東京大学で面白い研究会を見つけ、西川さんと参加しました。
日本木材学会居住性研究会・日本生理人類学会 Wood/Human Relations研究部会、2018年度合同講演会&ワークショップ(於東京大学弥生講堂アネックス セイホクギャラリー)
木の健康効果を調べていた時に欲しかった情報は、この研究者の方たちが持っていらしたわけです。
特によかったのは、木材学関連の居住性研究マイルストーン
1971年から2017年まで、誰がどんな研究をされたのか、東京大学大学院の信田聡先生が詳しく説明してくださいました。
ワークショップでは「ヒトのココロを測る」と題して、香りをかいで評価し、その結果をすぐに集計するという興味深い体験をしました。
本当の検査では環境など影響を与えるものをきちんと排除してする、という説明もありました。
動物実験のように、ある程度ばらつきを抑えられる実験系とは異なり、ヒトの感性という数値化しにくいものを扱うので、再現性は難しいと感じました。しかし、うまく実験を組めば、ヒトの感覚に近いデータが得られそうな気がします。参加して本当に良かったです。
嗅覚から触覚、視覚へ
これまでの研究は、森林浴、精油の香りなど嗅覚に基づくデータが多かったと思います。
今後は、触覚、視覚の方に研究が広がっていくだろうという意見があり、とても興味深かったです。